藤尾建築構造設計事務所

構造設計と構造家



 建築の設計では、使用者の行為・行動、使用者間の関係性、周辺環境と使用者の関係性などのありか
たを提案するソフトウェアの部分(実体のない部分)と、それを実現する建築空間、その建築空間を構成する
構造、及び必要とされる機能を満足する設備などのハードウェアの部分(建物及び建物を構成する部分)を
バランスよく調和させることが重要となる。
 建築の設計において、構造設計は建築空間の表現方法とその構造を模索する行為であり、以下に具体
的な内容を示す。
1.構造計画

 建築家が描くソフトウェアの部分を十分に理解し、その空間を表現することができ、かつ施主が求める
構造性能(耐震性・振動・遮音等)及びコストを満たす構造を検討する。 しかし、建築家と施主の要求
を同時に満たすことが困難であることが多く、その際には施主に十分な説明を行い理解を求める等、施
主と直接打ち合わせる必要が出てくることもある。 このプロセスを無視した構造計画では、基準上で
は問題がなくても、その建築の使用者に不快感を与える可能性がある為、創造的な空間を造ろうとす
ればするほど重要となる。
2.構造計算

 構造計画に従って各部材(柱・梁など)が要求性能を満足するために必要な断面(部材の大きさ・鉄
筋量など)を求める。 計算は、構造体を計算可能なモデルに置き換え、各部にかかる力を求める。 
そして、その力に対して、各部が壊れないか検証する。 この時、モデル化(計算モデルに置き換える
作業)の妥当性、各部にかかる力に対する余力、変形量をどの程度に設定するか設計者が慎重に判
断する必要がある。
3.申請

建築の規模・設計方法に応じて数種類の方法が示されており、工学的に安全であることを、法に従っ
た形式で示す書類(構造計算書)を作成する。
 構造設計は、概ね前述の1〜3の工程によって行わるが、設計者のスタイルによって各工程に対する時間
のかけ方に差がある。 特に「1.構造計画」の工程は、この部分に十分な時間をかけて、建築家・施主が満
足し、かつ構造的性能およびコストが納まるまで、何度も繰り返し調整していくことが望ましいのだが、実際
には設計期間や設計にかかるコストの問題もあり、成果物としての実体のないこの部分は極力抑えられる
ことが多い。 そのような状況下で、構造計画に重点を置き、積極的に創造的な構造方法を提案していこう
という意識を持つ構造設計者を『構造家』と呼ぶ。
『構造家』という言葉に厳密な定義は無いが、このサイトでは、単に構造計算と申請業務のみを行う構造設計者
と区別するために用いる。